2016年8月18日木曜日

ハチ飼いにも重要な8月15日

一見、季節外れの話題になるが、養蜂ではコロニーを無事に越冬させることが重要な課題だといわれる。しかし、ハチが巣箱に隠りきりになる冬季に、ハチ飼いができることといえば巣箱の保温をしっかりしておくことくらいしかない。つまり、冬場は成りゆきに任せる以外なにもできない。



 



養蜂初心者としてあれこれ資料を読んでいると、「越冬の成否は、真夏のハチのコロニーの健康状態と栄養状態によってすでに決まっている」ということがわかってきた。以下に、資料をつまみ食いしながら、その結論に至る道筋を見てみよう。 






ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したか』(中里京子訳、日本語版初版2009年)に、ハチの栄養状態を決める重要な物質としてビテロジェニンの説明がある。



 



ビテロジェニンとは 



『ハチはなぜ大量死したか』P68より要旨

コロニーにいる若い成蜂である育児蜂は蜂パン(巣房に蓄えられた花粉が乳酸発酵したもの)を食べ、頭部にある下咽頭腺を使ってローヤルゼリーを作り出す。この腺は動物の乳腺に相当するものだ。乳と同じように、ローヤルゼリーも美味で消化しやすいタンパク質の懸濁液で、健康面で無数の恩恵を与えてくれる。ローヤルゼリーにはビテロジェニンという物質が含まれている。ビテロジェニンは、免疫力を高め、ストレスを軽減するだけでなく、疲労や消耗を防ぐ強力な抗酸化剤でもあるのだ。養蜂家のランディ・オリバーは、ビテロジェニンのことを「ミツバチの若さの泉」と呼ぶ。

コロニーの健康状態を測る基本的なものさしは、ビテロジェニンの備蓄状態だ。ビテロジェニンは花粉に含まれる栄養素が合成されたものなので、コロニーの健康状態は花粉の供給状況に依存している。けれども、ミツバチは、蜂蜜を100キロ以上も貯めこむようには、花粉を貯めない。貯めるよりも、もっと仲間を増やすことに使うのだ。だからコロニーが得る大方のタンパク質は育児蜂と蜂児の体内に蓄えられるのである

 

なお、ビテロジェニンについては山田養蜂所ミツバチ研究支援サイト『ミツバチについての基礎知識』「(2)ミツバチの生活」のなかの「ミツバチの食料」にも具体的な説明がある。




ジェイコブセンは、文末の参考資料にランディ・オリバーの投稿した『Fat bees』というアメリカン・ビー・ジャーナルの連載記事(2007年)を挙げている。上記のビテロジェニンの説明、じつはこの連載記事が情報源となっている。この記事はオリバー自身のサイトscientificbeekeeping.comに掲載されているので、いまでも読むことができる。



 



http://scientificbeekeeping.com/fat-bees-part-1/(part-4まである)



キャプチャ 


じつはscientificbeekeeping.comはわたしの愛読サイト?であり、多くの養蜂知識をこのサイトから得た。



 



以下は、『Fat bees』の記事のなかの「Vitellogenin and varroa」、「Seasonal protein
levels
」を要約したものだ。



 



Vitellogenin
and varroa
(ビテロジェニンとバロア)
 



蛹のときにバロアに犯された働きバチは、長く生きる冬バチが備えるべき典型的な生理学特徴を発達させることができない。したがって、晩秋になってからバロアを退治しようとしても、コロニーの衰退は防げない。なぜなら、(そのコロニーがバロアに犯されていれば)その時期に成虫となった働きバチの多くが春まで生きのびることができないからだ。だから、冬バチの発生する以前とその後とを通じて、ダニの個体数を低レベルに抑えるように管理すべきである。
(記事の文末資料Dr. Amdam (2004b)からの引用) 


この文献の引用に続いて、オリバーは夏場にダニのレベル(コロニーに寄生するダニの個体数)を押さえておべきことを強調し、次のように記す。 



したがって、バロアのレベルを下げるときに重要な目安となるのは15だ。このころまでに十分レベルを下げておかないと、ダニに犯されたハチは越冬するのに十分なビテロジェニンを体内に蓄えることができず、春早々に産まれた第一ラウンドの蜂児を育てることができない。


 

Seasonal protein levels(タンパク質レベルの季節変動)



働きバチの成虫の体内のタンパク質レベルは、摂取できるタンパク質の量と、採餌と養育による労働負荷に依存し21%~67%の季節変動を示す」。
(豪Graham
Kleinschmidt
らの文献を引用) 


この文献の引用に続いて、オリバーは「タンパク質レベル=ビテロジェニンのレベル」と読み替えて、次のように記す。(訳注:ビテロジェニンの成分のほとんどはタンパク質で残りわずかは脂質と糖質) 



多量の流蜜によってコロニーに激しい労働負荷がかかれば、たとえある程度のたんぱく質が得られても体内のタンパク質レベルは低下する。コロニーが回復に要する時間はタンパク質レベルの低さと養育する蜂児の多さに影響され、12カ月を要することもある。もしも、レベルが40%を下回らなければ、週間から1カ月で回復できる。
 
夏期、ハチのコロニーにとってタンパク質は貴重であり、その自然の供給源はさまざまな花粉しかない。ハチたちは、タンパク質を内勤バチの体内にビテロジェニンとして蓄えて、熱心に保存し、彼女らが外勤バチとして巣立つまえに取り戻す。こうして外勤バチはビテロジェニンによる長い寿命と免疫の恩恵を断念することになる。育児バチが生産したビテロジェニンを共有することによって、タンパク質はコロニー内でハチからハチへと引き継がれる。ビテロジェニンのレベルは外勤バチの採餌行動に影響する。飼育バチ、女王、冬バチはビテロジェニンを多量に保有することで、長寿となり、ストレスや病気への耐性を獲得する。越冬の成功は、晩夏から秋に発生する最終ラウンドのハチにかかっている


また、scientificbeekeeping.comには、コロニー内のハチの日齢分布の推移を示す資料がある。
日齢分布
働きバチの日齢クラス別通年分布
色別の帯はコロニーのハチを日齢12日ごとに分けたクラスの割合を示す。赤から緑は夏バチで寿命は最大でも2カ月、青から紫は冬バチで花粉のない期間にコロニーを守る長寿の働きバチ。8月の中頃から冬バチが出現して夏冬の交代期に向けてハチの生理が変わることを示している。破線は育児巣房の数を示し、横軸の数値はその時点のコロニー全体のハチの平均日齢を示す。

夏の真っ盛りにコロニーに多数のバロアがいれば、そのときに有蓋蜂児であった幼虫はたとえ正常な姿で羽化したとしても、ダニの媒介するウイルスに侵されていて不健全であり、若いハチのみに可能なビテロジェニンを十分に生産ができない。

ここで問題になるのは、この時期にこのようにして生まれたハチたちが「冬バチ」だということだ。通常、働きバチの寿命は1カ月ほどだが、越冬時のコロニーをあずかる冬バチの寿命は6カ月にもなる。冬バチが病に冒されていれば、そのハチ自身が冬を越えられないかもしれず、コロニーの個体数は漸減し、またビテロジェニンも順調に生産されず、コロニー全体を健全に保つだけのビテロジェニンの確保が難しくなる。

つまり、お盆の時期までにバロアの個体数をどの程度まで抑えておけたかが、ミツバチのコロニーの越冬の正否の鍵を握るのである。


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