2018年6月10日日曜日

女王失踪群の救済

セイヨウミツバチの場合、女王が失踪しても、ある程度の資源(卵、幼虫、蛹、成虫、ハチミツ、花粉)を有する群であれば、残された働きバチたちが「変成王台」を作り、新しい女王を育て正常な群に復旧できる可能性がある。しかし、弱小なリンゴ群では自力回復は望むべくもなく、消滅は時間の問題だった。
変成王台
女王の卵は、働きバチが専用に
用意した王台という特大の巣房(女王バチは働きバチよりひとまわり大きい)に産み付けられ、孵化後は一生を通じてロイヤルゼリーが与えられる。一方、働きバチの卵は、普通の巣房に産み付けられ、孵化後3日はワーカーゼリー(ロイヤルゼリーと成分が異なり栄養価も低い)が、その後は花粉とハチミツが給餌される。ただし、卵自体は同じもので、働きバチ用の巣房に産み付けられた卵でも、孵化後3日以内にロイヤルゼリーを与えれば女王になる。普通の巣房に産み付けられた卵が、群の事情(女王の失踪や老衰)により、飼育方針が変わり後継の女王として育てられるときは、巣房もそれに応じて王台に作り変えられる。これを変成王台という。通常の王台は巣脾の下部に作られるが、変成王台はランダムな位置に出現する。
そんな状況をプロジェクトへ伝えると、複数の群を飼育するベテラン・メンバーのN氏から救いの手が差し伸べられた。N氏から個体数の多い充実した巣板を1枚提供してもらい、それをリンゴ群と「合同」して変成王台を作らせようというのだ。有り難く支援を受けることになったのは言うまでもない。

ハチたちは互いが同じ巣に属するかどうかを体臭で嗅ぎ分ける。異なるハチ群を無条件に混在させると、臭いの違うものは互いに攻撃しあい死骸の山を築く。そのため、闘争を回避して2つの群をまとめる方法がいくつか考案されている。今回は「新聞紙合同」を使った。といっても、当方がやったのではなく、巣板はもとより合同用の巣箱から必要な道具一式をN氏に持参願い、合同の作業も実施していただいたのであった。感謝感激である。

巣箱と継箱を用意し、巣箱にリンゴ群を入れて新聞紙を被せる(写真左側、新聞紙の下が巣箱、上が継箱)。新聞にはナイフで細い切れ目を入れておく。その上からN氏提供群の入った継箱を載せて蓋を閉める。このとき両方の巣枠の上桟に数滴のハッカ液を滴下しておく。

継箱には巣門がないので、継箱のハチたちはいずれは新聞の切れ目を食い破って下の巣箱へ侵入する。しかし、新聞を食い破るまでの時間経過と、ハッカ臭のマスキング効果によって、臭いによる互いの識別意識が薄れ、激しい闘いを起こすことなく両群は混じり合う。

 
新聞紙合同 継箱にN氏群、巣箱にリンゴ群

合同で十分なハチ資源が得られた無王群では、数日をおかずして変成王台が作られ、16日ほどで新女王が誕生する。さらに、この女王が交尾飛行に成功すれば、働きバチの産卵が開始されて、正常なハチ群として個体数を増やしてゆくことになる。ハチの飼育に想定外はつきもの。絵に描いた餅となることもあるが、リンゴ群単独に比べて成功の可能性ははるかに高まる。

ことの成否はいずれ報告しよう。